2020年11月2日の「グレーテルのかまど」は、「ベートーベンのフルーツコンポート」。
ベートーベンといえば、ドイツの作曲家で、ピアニストとしても有名ですよね。
1770年にボンで生まれたベートーベンは、今年、生誕250周年を迎えて、その作品が、よく演奏されていますよね。
その作品は、交響曲第9番(第9)をはじめ、第5番(運命)、ピアノ協奏曲、ピアノソナタなど多くあり、一度は耳にしたことがあるというくらい、数百年経った今も愛され続けています。
そんなベートーベンの記録は、多く残されていて、食べ物にも相当にこだわりがあったのだとか。
その記録によると、ベートーベンは、フルーツのコンポートが好きだったようなのです!
数々の病を抱えていたベートーベンは、医師から厳しい食事制限がされていたといいます。
そんな中、「フルーツコンポート」を友人にねだる、ベートーベンの手紙が遺されていました。
スイーツは、食べる人の人間らしさを浮き彫りにすると、私は思います。
よく知られた、肖像画からイメージされる、強面のベートーベンとは違う一面が、垣間見えた番組でした。
グレーテルのかまど「コンポート」は、ジャムと違うの?
「コンポート」とは、どんなスイーツなのでしょうか?
フルーツを加工した、似たようなスイーツとして、“ジャム”や、“コンフィチュール”などもあります。
どう違うのでしょうか?
コンポートとは、フルーツを、白ワインや砂糖などで作ったシロップで、煮たもののことです。
ただ、煮詰めることはなく、フルーツの形が残った状態で、シロップの中に浸っている状態になります。
コンポートは、フルーツだけでなく、一緒に煮たシロップも、フルーツのおいしさが、たっぷりと出ていて、美味しく頂くことができます。
シロップは、サイダーで割って飲んだり、ゼリーにしたりなどで食べるのがお勧めだそうです。
2つの楽しみ方があるってことですね。
コンポートは、砂糖が少なめで、多く使用する場合でも、果実の重量の半分程度が目安のため、フルーツそのものの味わいを、感じることができますが、保存には不向きです。
一方ジャムは、フルーツそのものの水分で煮ていきます。
フルーツに砂糖をまぶして、その浸透圧により、フルーツの水分が染み出て、それを利用して、煮詰めていきます。
砂糖の量もコンポートより多く、とろみがでるまで煮詰めていくために、フルーツの形は煮崩れる場合が多くなります。
保存も、砂糖を多くいれてしっかりと煮詰めるので、煮沸消毒した保存用の瓶などに入れて密閉すれば、半年~1年は、保存が可能になります。
コンポートは、フルーツの持つみずみずしさや、フルーティーさを楽しみます。
ジャムは、フルーツのうまみを凝縮しているために、フルーツのもつ味わいを、少量でも楽しむことができます。
なるほど!似て非なるものなんですね。
ベートーベンの時代、コンポートは、ウィーンはもちろん、広くヨーロッパで親しまれていました。
当時は、クリームなどを添えて、楽しむことが多かったそうです。
そして、コンポティエと呼ばれる、足つきのちょっと洒落た専用の器に、盛りつけていたようです。
ベートーベンも、食事のデザートとして、客人に振る舞ったと言われています。
日本で菓子店を営む、オーストリア人のアドルフ・サイラーさんが、オーストリアでは、オーソドックスな、”りんごのコンポート”の作り方を教えてくれました。
まず、りんごの皮をむく前に、シロップを準備します。
シロップ(水と砂糖が入っている)に、レモン1個分の果汁と、その皮を加えておきます。
りんごの皮を剥き、1口サイズに切ります。
りんごが変色しないように、切ったらすぐに、シロップにつけます。
レモンの酸が、りんごの色止めをしてくれます。
サイラーさんが言うには、オーストリアでは、りんごが1番ポピュラーな果物なのだとか。
他に、プラム、チェリー、杏などがあるそうで、いろいろなフルーツで、コンポートをつくるのだそうです。
シロップの中にりんごを入れたら、香りづけに、シナモンスティックとクローブを入れます。
子ども用であれば、これが1番オーソドックスな作り方です。
大人用には、ワインやラム酒をちょっと入れて作ります。
柔らかくなるまで煮て、しっかりさましたら出来上がりです。
サイラーさんにとっても、コンポートは、想い出の味のようです。
「昔は家族が多かった。自分が子供の頃は、今みたいに甘いものがなかった。りんごをそのまま食べるのではなくて、煮て、柔らかくなっているから、おいしかった」
できあがった、”りんごのコンポート”を味見したサイラーさん。
「柔らかさと酸味と甘さが調度いい。懐かしい。おばあちゃんが作った味がする」
と、感慨深げでした。
日本では、フルーツを生で食べることが多いのですが、調理することで、さまざまにフルーツの味わいを楽しむことができるんですね。
あぁ、“かまど”が言ってましたが、日本でも昔から、馴染みのコンポートがありました!
そう、果物の缶詰!
チェリー、杏、黄桃、白桃、パイナップル、みかん、洋梨などなど。
今でも、スーパーなどで売られていますよね。
すこし前、家庭で手軽に作れるおやつとして親しまれていた、フルーツポンチ。
その中に入れていた果物の缶詰が、コンポートだったのですね。
グレーテルのかまど「コンポート」好きのベートーベンは、気難しい?それとも、おねだり上手?
ベートーベンには、さまざまな逸話が遺されています。
22歳ごろ、ベートーベンは、故郷のボン(ドイツ)からオーストリアに移り住みます。
56歳で亡くなるまでの34年間を、ウィーンを中心に暮らしていたのですが、その間、70回以上も引っ越しをしたという話があります。
原因は、ご近所づきあいなどの揉め事と言われています。
また、レストランで、注文と違う料理がでてきた時に、給仕の対応の悪さにかっとしたベートーベンが、料理を皿ごと給仕人に投げつけ、給仕と言い合いになったというエピソードもあります。
これらのエピソードは、ベートーベンの直情的な、気難しい面を感じさせますが、20代後半から、難聴の症状が出始めていた、ベートーベンの苦悩も感じさせます。
耳が聞こえないという、音楽家としては、致命的とも言える障害に、ベートーベンは苦しみます。
そればかりでなく、ベートーベンは、若い頃からの腸疾患に加え、様々な病を抱えていました。
医師に、厳しい食事制限を言い渡されながら、友人に懇願し続けたのが、ワインとコンポートでした。
病を得てからのベートーベンが、友人にコンポートを送ってくれと、ねだっている書簡がいくつも残されています。
“今日はまた、チェリーのコンポートをお願いしたい。でも、レモンなしで全くシンプルにね”
単に、コンポートをねだるのではなく、フルーツの種類や、調理の仕方まで注文しているのが、病気のせいなのか、好みが繊細なのか。
ベートーベンらしさが現れてるな、と感じます。
日本学術振興会特別研究員PDの丸山遥子さんは、病を抱えながらも、コンポートを求めたベートベンの気持ちをこう語っています。
「ウィーンには、フルーツを甘く熱して作るジャム、ソース、コンポートが多く、普段の食事から、食べていたことを匂わせる記録があります。病気の時でも、安心して食べられるものだったと思われます」
また、
「疾患が原因のために、食べやすいものを言われていたのは、多分確かだと思います。
ただ、人間の心理から考えて、病気の時に、甘いもので喉越しが良く、冷たいものは、安心したりするじゃないですか。
そういう気持ちが、あったのではないかな、と思います」
ベートーベンの手紙の相手は、卸売り商人の友人、パスクァラティです。
この人は、ベートーベンを長きに渡り、支えた人物です。
書簡には、こんな文章もあります。
“私に合うワインが見つかったらお知らせしますね”
“あなたの好意を乱用しないようにしたいのだけど、コンポート楽しみにしています”
その数日後には、
“病気の男は、子供みたいにそういうものを欲してしまうんだ。だから今日は、網のコンポートをお願いします”
“他の料理に関しては、まず医者に相談しなくちゃいけないんだ”
これらの書簡から、駄々っ子のようにも思えるベートーベンを感じ、この友人に頼り切っている様子が伺えます。
丸山遥子さんは、言います。
「甘えたりするのは、その人と非常に仲が良くないとできないので、ベートーベンは、遠慮する事は無い関係を築ける人だったんだと思います。
今、私たちが持っているイメージの、気難しい近寄りがたい感じではなく、どちらかと言うと、愛くるしいとまで言ったら、違うかもしれないんですけど、周りにたくさん友人がいて、愛されるような人間だったんだと、私は、思います」
孤高の天才と語り継がれるベートーベン。
しかし、コンポートからは、周りの人々に支えられて暮らした、愛すべき作曲家の姿が、垣間見れるのです。
ベートーベンの肖像画のイメージや、壮大な曲想から、厳しくて怖いイメージがありましたが、思わず世話を焼きたくなるような、おねだり上手の一面もあったのは、とても意外でした。
グレーテルのかまど「コンポート」の他に、ベートーベンは、ワインとコーヒーが好き!ウィーンに残る食にまつわるエピソード
ベートーベンは、ワイン、特に赤ワインが好きだったと言われています。
ベートーベンがよく通ったと言われる、ウィーンに現存する店、ZUM SCHWARZEN KAMEEL(ツム・シュヴァルツェン・カメール)(注1)には、ベートーベン直筆のワインの注文書が残っています。
一面に文字が書かれた紙には、
“甘くてビターなキプロスさんの500ミリリットルボトル甘口を12本と・・・”
なんと、注文書にあるワインの数は、168本!
こんなに多くの注文をするなんて、ベートーベンは、自分好みのワインを常に探して、リストアップしていたということではないでしょうか?
(注1)ZUM SCHWARZEN KAMEEL(ツム・シュヴァルツェン・カメール) Bognergasse 5, A-1010 Wien
ワインに負けず劣らず、ベートーベンは、コーヒーが大好きだったと言います。
ベートーベンは、毎朝自分でコーヒーを淹れて、楽しんだといいます。
でもなぜか、豆は必ず60粒と決めていて、自分できっちり数えていたのだとか。
部屋は荒れ放題で、服も放りっぱなし、楽譜や書類も床に散らばっていたというのに、コーヒー豆の数は、毎朝確認して、丁寧に淹れているというのは、ずいぶんなこだわりですよね。
それだけ、コーヒーに魅せられて、毎朝の1杯を大切にしていたということでしょうか。
そして、ベートーベンの食へのこだわりは、続きます。
毎週木曜日には、決まってパン入りのスープを飲んでいたとか。
スープに入れるために用意されたのは、10個もの卵だったといいます。
なぜ、卵が10個も?
その卵を、ベートーベンは、一つ一つを念入りに、ヒビが入っていないかをチェックしたのだとか。
よく分かりませんが、こだわると決めたことには、ものすごくこだわる人だったんですね。
丸山遥子さん(日本学術振興会特別研究員PD)は、ベートーベンの食の好みについて、こう言います。
「魚介類が好きだったようです。ウィーンは内陸で、川魚以外手に入りづらいので、故郷のボンから来て、ウィーンでそれらが食べられないことを、寂しがっていたといいます」
ベートーベンは、病をわずらいながらも、それ故かもしれませんが、食にこだわり、大切にしていたのではないかと思いました。
グレーテルのかまど「コンポート」好きなベートーベンは、当時のアイドルだった?
類稀(たぐいまれ)な才能から、モーツアルトの死後、音楽を愛するウィーンの人たちの注目を浴び、人気を博したベートーベンは、若い頃から、精力的に多くの曲を生み出しました。
ベートーベンが亡くなった時には、彼を尊敬するシューベルトを始め、2万人もの市民が、葬儀に参列したと伝えられています。
その様子が、「ベートーベンの葬儀」(フランツ・シュテーバー作)の絵に残されています。
絵には、広場を埋め尽くす人々、棺の前後には、棺を守って行進する兵隊(?)の列が描かれています。
病床で切られた髪の毛を含め、ベートーベンにまつわるあらゆるものが、死後売られていたというエピソードもあります。
その人気たるや、すごいものです。
今のアイドルも、及ばないのではないでしょうか?
丸山遥子さん(日本学術振興会特別研究員PD)は、ベートーベンの作品について、こんなことを言っていました。
「ベートーベンは、すべてを独創で作り上げているイメージが強いですが、決してそうではなくて、友人の音楽家などからのアドバイスも受けていました。
周囲からの刺激を受けて、最も効果的な方法で、作品に具現化する。
それによって、当時の人を驚かせ、今に受け継がれる音楽が、生れたのではないかと思います」
晩年、病床のベートーベンを思って、気の置けない友人が、何度もコンポートを送りました。
そして、そのコンポートは、亡くなる間際も、傍(かたわら)にあったと伝えられています。
周りの友人たちを頼りに、築かれたベートーベンの世界。
何百年に渡って愛される音楽は、友がいて、そのサポートをベートーベンが受け入れたからこそ、生まれたのかもしれません。
グレーテルのかまど「フルーツコンポート」と、ウィーンの「カイザーシュマレン(パンケーキ)」を作ってみましょう!
ベートーベンが愛したフルーツコンポートと、一緒に食べるウィーンのカイザーシュマレンを作ってみましょう!
洋梨のコンポート
果物の持ち味を生かしながら、一味違った楽しみ方を堪能します。
☆味わいの決め手:フルーツをさらに美味しく
この時期フレッシュでおいしい洋梨で、フルーツの味を存分に楽しめる、シンプルなコンポートを作ります。
1.洋なしは皮をむき、中の種を取り除き、4等分にカットします、
2.変色を防ぐ為にレモン水につけておきます。
煮込み汁にレモンを入れる方法もあります。今回は、レモンは抜きでと、ベートーベンも言ってましたから、それにならって。
◎掟:レモンで鮮やか
シロップを作ります
3.水とグラニュー糖を鍋に入れて、火にかけ、沸騰させます。(水1000mlに対して砂糖400グラム)
★ポイント
大体30から40%の濃度のシロップで煮詰めるのがコンポート。もっと糖度が高いジャムは50から
65%。果物の水分が、糖に置き換わるまで煮詰めるから、糖度が高ければ高いほど、保存性が高く
なります。
4.沸騰したら、洋梨を入れ、浮かんでこないように、オーブンペーパーで落し蓋(おとしぶた)をします。
5.洋梨が透き通るまで煮えたら、火を止め、別の容器に入れて冷蔵庫で保存します。
アプリコットのコンポート
ベートーベンは、赤いワインが大好きでした。
赤ワインを使ったものも作ってみましょう!
冷凍のアプリコット(セミドライのものでもOK)を使います。
1.鍋に赤ワイン、グラニュー糖、シナモンスティック、クローブ、オレンジとレモンの輪切りを入れ、火にかけます。
香りづけのために、シナモンとクローブ、さわやかな風味をつけるのに、スライスしたオレンジと、レモンと、色々と入れると、味わいが複雑になります
2.沸騰したら、冷凍アプリコットを入れて、オーブンペーパーで落し蓋(おとしぶた)をします。
3.弱火で約5分火を通したら、火を止め、別の容器に入れて冷蔵庫で保存します。
■事前準備
・洋なしを水洗いする。
・オレンジ、レモンに洗剤をつけて表面を洗い、厚さ3mmほどの輪切りをそれぞれ2枚作る■材料
コンポート 洋なし 3個分、赤ワインコンポート 3人分、カイザーシュマレン 1~2人分<洋なしのコンポート>
洋なし 3個
水 1000ml
グラニュー糖 400g
レモン汁 15ml
水 適量<アプリコットのコンポート>
赤ワイン 375ml
グラニュー糖 125g
シナモンステック 1本
クローブ 3粒
オレンジ(国産) 輪切り2枚
レモン(国産) 輪切り2枚
冷凍アプリコット 200g (セミドライアプリコット)(出典:NHK グレーテルのかまど ~ベートーベンのフルーツコンポート~より
フルーツコンポート レシピ監修 エコール 辻 東京 中濱 尚美 先生)
ウィーンのカイザーシュマレン
コンポートと一緒に食べられるパンケーキを作ってみましょう!
1.ボウルに卵黄、グラニュー糖、塩をひとつまみ入れて、泡だて器で混ぜます。
2.そこに、牛乳の半量(30ml)を加えて混ぜてから、バニラエッセンスと粉を加えてダマができないように、擦り混ぜます。
★ポイント
最初に牛乳を全部入れると、粉を入れたときに、ダマになりやすくなります
3.よくかき混ぜたら、残りの牛乳を少しずつ加えて、かき混ぜていきます。
4.別のボウルで、卵白を泡立てます。卵白にグラニュー糖を数回に分けて加え、メレンゲを作ります。
5.3の生地と4のメレンゲを合わせて、ゴムべらで、切り混ぜます。
6.フライパンにバター半量(15g)を溶かし、生地を全部流し入れます。
7.弱火で約4分焼き、うっすらと色づいてきたら、一旦生地をフライパンから出します。
8.フライパンに、残りのバターを溶かし、生地ひっくり返して、裏面も焼きます。
9.フォークで一口大のサイズに切り分け、お皿に取り出し、粉糖をふります。
生地を置いた隣に、高足の器に盛ったコンポートを添えます。
洋梨の味わいがしっかり感じられるシンプルなコンポートと、スパイシーで香り豊かな赤ワインバージョンのアプリコットのコンポート。
ふわふわのカイザーシュマレンに合わせて食べれば、ウィーンに行った気持ちになれるかもしれません。
<カイザーシュマレン>
卵黄 30g
グラニュー糖 13g
塩 ひとつまみ
牛乳 60ml
バニラエッセンス 適量
薄力粉 50g
卵白 45g
グラニュー糖 25g メレンゲ用
無塩バター 30g
粉砂糖 適量
(出典:NHK グレーテルのかまど ~ベートーベンのフルーツコンポート~より
フルーツコンポート レシピ監修 エコール 辻 東京 中濱 尚美 先生)
グレーテルのかまど「ベートーベンのフルーツコンポート」を観て
ベートーベンは、病を抱えて、逆境の中を生きた人だと思っていましたが、それだけでなく、当時の人から、音楽も人柄も愛される一面を持つ人だったことに、驚きました。
ベートーベンは、何百年も愛され続けているアイドルっていうことになりますね。
お目にかかることができないのは、残念ですが、その残された数々のエピソードと共に、音楽を改めて味わってみるのも、良いかもしれません。
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