グレーテルのかまど “ペ・ド・ノンヌ”は、画家ロートレックが愛した「尼僧のおなら」という名のお菓子

2020年9月21日放映の「グレーテルのかまど」は、「ロートレックのペ・ド・ノンヌ」。

“ペ・ド・ノンヌ”とは、どんなスイーツなのでしょうか?

ちなみに、“ペ・ド・ノンヌ”(Pet de nonne)は、フランス語で「尼のおなら」を意味します。

スイーツなのに、こんな奇妙な名前が何故ついたのでしょう?

昔、修道院でシュー生地を作っていた修道女が、調理中に“おなら”をして、誤って生地を油に落としたことがきっかけで生まれた、と言われています。

ちょっとお茶目なかわいらしさも感じるこのスイーツは、現在の焼いてふくらませるシュー生地の祖先、揚げてふくらますシュー生地のスイーツになります。

シンプルな材料で作られるこの素朴なスイーツを、フランスの画家、ロートレックが愛していたのだとか。

酒と美食を愛した、世紀末の偉大な画家は、このスイーツのどこに魅了されたのでしょうか?

グレーテルのかまど “ペ・ド・ノンヌ”と画家ロートレックの出会い

アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレックは、19世紀後半のパリで活躍した、後期印象派の代表的な画家の一人です。

19世紀後半のフランスに生まれ、ゴッホやモネと同じ時代に活躍した画家です。

ロートレックは、パリの歓楽街で生きる人々を描き、その躍動感あふれる線と色使いが特徴的です。

日本の浮世絵にも影響受けたと言われています。

強い酒を煽っては、そのままアトリエにこもって絵を描く、夜のパリに生きた芸術家でした。

フランス南西部の町ヴェルドレーに、ロートレックの母が住んだ、マルロメ城があります。

ロートレックは、休暇にはここを訪れて、のんびり過ごしたといいます

ここで出会ったのが“ペ・ド・ノンヌ”でした。

マルロメ城のシェフである、セバスチャン・ピニエロは言います。
「ロートレックが“ペ・ド・ノンヌ”のレシピを知ったのは、彼の母が修道女と親しかったから。その修道女から教わったんです」

母が、毎日通っていたと言う、ヴェルトレーの教会の修道院で作られた“ペ・ド・ノンヌ”が、ロートレックのお気に入りでした。

“ペ・ド・ノンヌ”は、卵と粉と砂糖で作るシンプルなスイーツですが、ここのレシピはちょっと変わっていました。

レモンとラム酒を入れるのです。

ロートレックは、いつも持ち歩いていたステッキに、お酒を入れていたと言われるほど、お酒が好きだったといいます。特にラム酒がお好みだったのだとか。

お酒に目がなかったロートレックとラム酒を効かせた“ペ・ド・ノンヌ”は、まさに運命の出会いだったのでしょう。


グレーテルのかまど “ペ・ド・ノンヌ”を画家ロートレックが愛した理由は?

フランス南部の町、アルビにあるボスク城は、ロートレックが、少年時代を過ごした城です。

ロートレック家は、南フランスに8世紀から続く貴族の家柄で、広大な領地で、馬に乗り、狩りをするのが、ロートレック家の男たちの楽しみであり、たしなみでもあったと言います。

歴史家のポーリー・ヌルクレールは、ロートレック家のことをこう語っていました。
「ロートレックの祖母は、“狩”には3つの楽しみがあると言っていました。
“狩猟”、“鉛筆”、“フォーク”。

まずは狩りをし、獲物をデッサンして、そしてその料理を家族で盛大に味わう。ロートレックは子供の頃、すでに洗練された美食家であり、食いしん坊でした。家族は、彼を“ロートレック家の胃袋を持っている”、つまり、“食べることが大好きだ”といったものでした」

しかし10代半ばのロートレックは、事故で、たて続けに両足を骨折し、それ以降、両足の成長が止まってしまいます。

ボスク城には、子供たちの背丈を刻んだ壁が残されています。

そこには、ロートレックの身長は152センチと刻まれていますが、彼の身長は、ここからは伸びる事はありませんでした。

3つの“狩”のうち、乗馬ができなくなったロートレックは、食べることと、絵を描くことに、よりいっそう喜びを見出していきました。

友人に手料理を振る舞うことも、しばしばだったと言います。

ロートレックは、“料理人アンリ”と呼ばれていました。

友人の好みに合わせて、料理の腕をふるうロートレックは、食事会のメニューのイラストや、招待状の絵を描くなど、趣向を凝らしてもてなすことも大好きでした。

彼にとって、料理はもてなしも含め、芸術だったのです。

そして、食事のラストを飾るのは、ロートレックお手製のラム酒を効かせた“ペ・ド・ノンヌ”でした。

不自由な足を抱えたロートレックは、障害のため様々な差別を受けました。

彼が心を寄せたのが、同じように世間から冷たい目を向けられていた、場末のキャバレーの踊り子や、娼婦たちでした。

ロートレックは、彼女たちを描き続けます。

高い評価を受け、画家として名声を得ても、ロートレックの孤独やコンプレックスは、消えることがありませんでした。

深酒と奔放な生活で、体を壊したロートレックは、両親に見守られながら、36歳10か月の生涯を閉じます。

彼の死後、残された作品の管理を任されたのが、幼なじみであり、画商のモーリス・ジョワイヤンでした。

モーリス・ジョワイヤンは、ロートレックの功績の全てを後世に残そうと、ロートレックの作品の多くを集めて美術館を作り、彼の料理のレシピ本も出版しました。

その名も「独身モモ氏の料理法」(1930年)。

このレシピ本の中には、ヴェルトレーの修道院のラム酒入り“ペ・ド・ノンヌ”のレシピも入っています。

ロートレックは、よく言っていたそうです。
「醜いものの中にも、美はある」

“ペ・ド・ノンヌ”と言う名前は、美しくありませんが、そこにも美しいものを見出したロートレック。

これを食べたときに、優しく美しい記憶を思い出したのでしょうか。


グレーテルのかまど “ペ・ド・ノンヌ”「尼僧のおなら」という名のお菓子を作ってみましょう!

“ペ・ド・ノンヌ”は、フランスの家庭で作られてきた、身近なおやつです。

ロートレックが愛したラム酒風味で、再現をしてみましょう!

味わいの決め手は、”軽やかな大人の味” です。

1.まず、水、バター、塩、グラニュー糖、レモンとオレンジの皮を摺り下ろしたものを鍋に入れ、弱火にかけます。

2.水が沸騰する前に、バターを溶かします。
【掟:しっかり沸かして】

3.生地を膨らませるためには粉にしっかり熱を通すことが大切なために、なべ底から泡が大きく湧いてくるくらいまで、しっかりと沸騰させます。

4.沸騰したら、火からはずして、ふるった小麦粉を入れ、ひとまとまりになるまでヘラで混ぜます。

5.生地がまとまって、つるんとしたら、もう一度中火にかけます。鍋底に薄くオブラート状の生地の膜ができたら、生地をボウルに移します。

6.生地に、卵を何回かに分けて混ぜ入れます。最初は、生地と卵が馴染まないのですが、生地をヘラで細く切るようにして、表面積を増やせば、生地がしだいに、卵を吸収して馴染んでいきます。
根気よく切りながら混ぜます。

7.ラム酒と2種類のエッセンス(レモンエッセンス、オレンジエッセンス)で風味をつけます。

8.生地を搾り袋に入れます。

9.油の温度を160℃にして、スパチュラを油にひたし、絞り袋から生地をしぼり、適当な長さでスパチュラで切り落として生地を油に落としていきます。
スパチュラを油につけながら切ると、生地がつきません。油でぬらした、2本のスプーンで生地をまとめてもいいです。
【掟:まずはスパチュラ】

10.生地がきつね色になるまで揚げたら、余分な油を落として、ボールに入れ、熱いうちにグラニュー糖をまぶします。

ロートレックは、スパイスやハーブにもこだわっていて、特にナツメグは、いつもポケットに入れて、いろんな料理にかけていたと言います。

番組では、シナモン、カルダモン、ナツメグを小麦粉に加えた、スパイシーな“ペ・ド・ノンヌ”も紹介されました。

【材料】
事前に準備するもの
搾り袋、スパチュラ

<ラム酒風味の生地> 直径2cm程 50個
水                 125ml
無塩バター               25g
グラニュー糖            5g
塩                   1g
薄力粉           63g
全卵                50g          M玉1個分
レモンの表皮(国産)        1/2個
オレンジの表皮(国産)     1/2個
レモンエッセンス 適量         放送では5滴
オレンジエッセンス             適量         放送では5滴
ラム酒            30ml
グラニュー糖             適量         仕上げ用

<スパイス風味の生地>直径2cm程 50個
牛乳                125ml
無塩バター                25g
グラニュー糖             5g
塩                      1g
薄力粉             63g
全卵                 75g           M玉1.5個分
ナツメグ 適量            放送は0.2g
シナモンパウダー       適量
カルダモンパウダー    適量         放送では0.1g
グラニュー糖             適量         仕上げ用
ナツメグ                   適量         仕上げ用
パプリカパウダー       適量         仕上げ用
*サラダ油                適量         揚げ油

出典)NHK グレーテルのかまど
~ロートレックのペ・ド・ノンヌ~よりぺ・ド・ノンヌ



グレーテルのかまど フランスの修道院で生まれたスイーツ、“カヌレ”、“フィナンシェ”、“パン・デビス”

修道院で生まれたスイーツは、時代を超えて、現在日本でも愛されているものがあります。

まず、“カヌレ”
“カヌレ・ド・ボルドー(cannelé de bordeaux)”という名前で、「溝のついた」という意味になります。

蜜蝋を入れ、専用のカヌレ型で焼くのが特徴の焼き菓子です。

表面の生地はカリッとしていて、内側はしっとりした、食べ応えのあるお菓子です。

ワインを作っていた修道院で、ワインの澱(おり)を取るために、卵の白身だけが使われていたのですが、余ってしまう卵黄を有効活用しようと生まれたのが、“カヌレ”です。

次は、“フィナンシェ”

17世紀に、ナンシーの”L’ordre des Visitandines”の修道女によって作られたと言われています。

フィナンシェとは、 「金融家」「お金持ち」という意味を持ち、アーモンドプードルを使うのと、卵白と焦がしバターを入れるのが特徴で、フィナンシェ型と言われる長方形の型で焼くお菓子です。

アーモンドの粉がたっぷり入るので、肉が食べられないときの貴重な栄養源だったと言われています。

最後は、“パン・デビス”

“スパイスのパン”という意味の名前を持つスイーツです。

蝋燭(ろうそく)に使う蜜蝋を取るために、修道院ではよく蜂を飼っていたのですが、その副産物の蜂蜜を使ってつくられた蜂蜜とスパイスを入れたスイーツになります。

どのスイーツも、自分で手作りすることもできるのですが、お店の専門の味にも魅了される、不思議なスイーツたちです。

グレーテルのかまど 「ロートレックのペ・ド・ノンヌ」を観て

フランスの伝統のスイーツには、修道院から生まれたものが多いように思います。

時代を超えて、はるか遠い日本でも、それらが愛好されているのが、本当に不思議です。

素朴でありながら、素材のリッチな味わいに魅了されるのでしょうか。

ロートレックが愛した、レモンとラム酒入りの“ぺ・ド・ノンヌ”。

ヘンゼルは、「美味しい、美味しい」とパクパク食べていました。

美食家ロートレックが愛した味なのですから、絶対に美味しいにちがいない。

今度、作ってみよう!と思いました。


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