グレーテルのかまど エスコフィエがサラベルナールに捧げたスイーツ

2020年7月20日の「グレーテルのかまど」には、現在のフランス料理の元を築いたオーギュスト・エスコフィエが、「ベル・エポック」と呼ばれた古き良き時代のパリで、一世を風靡した女優、サラ・ベルナールに捧げたスイーツが登場しました!

その名も「フレーズ・サラ・ベルナール」。

足の長いカクテルグラスに盛られたその華やかなたたずまいに、女神のスイーツの風格を感じます。

パイナップルのシャーベットと真っ赤なイチゴのコントラストに、ブルーのクリーム。

この斬新な組み合わせに、まるで冠のように、きらめく細い糸で作られたような繊細な飴細工が載せられています。

芸術家たちにインスピレーションを与え続けたサラ・ベルナール。
スイーツだけでなく、絵や彫刻、文学に至るまで彼女を描いた作品が次々と生まれます。

彼らの創作意欲をかきたてた、サラ・ベルナールはどんな人だったのでしょうか?

グレーテルのかまどに、サラ・ベルナールの世界

新たな芸術や文化が花開いた19世紀末パリ。「ベル・エポック」、美しき良き時代と謳われました。

サラ・ベルナールが生まれたのは1844年頃。
幼くして里子に出された彼女は、修道院で育ちます。やがて女優を志したサラは、いくつかの劇団を渡り歩き、ある作品で注目を集めます。
1869年に上演されたフランソワ・コッペ作「去り行く人」。

それはなんと!男役でした。年上の女性を一途に愛する青年を繊細で優美に演じたそうです。
個性的で魅惑的なサラ・ベルナールは、当時のパリでセンセーショナルを巻き起こしたのではないでしょうか?

その後、1872年に上演された文豪ヴィクトル・ユゴーの舞台「リュイ・ブラス」で、美しい王妃を演じ、「黄金の声」と称賛され、一気に国民的スターに上りつめました。

男役も女役も自在にこなし、喜劇、悲劇、古典から新劇まで幅広く演じられるサラに、観客は熱狂し、その名声は不動のものになりました。
中でも、アレクサンドル・デュマ・フィス作の「椿姫」は、20年以上も上演し、公演は世界各地で催されました。

近代の芸術に詳しい、帝京大学文学部史学科教授で群馬県立近代美術館特別館長の岡部昌幸さんは、サラの魅力をこう語ります。
「ドラマチックな要素のある役を、魂が乗り移ったかのように演じるそのカリスマ性が、国民的な人気を博したのでは」

サラは、36歳になると自ら劇団を立ち上げ、異なる空気や風土、より広大な空間を求め、世界各地を飛び回ります。
劇団が巡った国々は、カナダ、アメリカ、イギリス、ベルギー、南米や北アフリカなど。
まさに、5大陸で公演を行った、世界初の国際的スターなのです。

「神聖なるサラ」、「劇場の女帝」、「聖なる怪物」など、数々の異名を持つ彼女は、芸術を愛し、とことん追求し、自らをそこに投じて、70歳を過ぎても現役で舞台に華を添えたといいます。その姿を見たある観客は、「40代にしかみえない」と言ったとか。

ものすごいプロ根性を感じますね。

パリに新たな芸術を育んだサラ・ベルナールは。1923年78歳で生涯を閉じました。


サラ・ベルナールに見出されたミュシャたちが生んだアール・ヌーヴォー

時代の寵児となったサラ。
女優の枠を超え、世紀末のパリに一大ムーブメントを巻き起こします。

サラ・ベルナールの魂を込めた舞台での演技と印象深い表情は、天性の魅力と相俟って、芸術家たちにそれ以上の新しいサラを表現させたといいます。

サラの存在に刺激を受けた芸術家たちは、絵画を始め彫刻や写真や文学や音楽に至るまで、サラを描いた作品を次々と生みだしました。

・ジョルジュ・クレラン作の絵画“リュイ・ブラスで女王を演じるサラ・ベルナール” 1897年
・ルネ・ラリック作 「テオドラ」 1902年
・ジャン=レオン・ジェローム作「サラ・ベルナールの胸像」1895年
・ルネ・ラリック 「サラ・ベルナール メダル」1896年

サラは、芸術家の発掘にも才能を発揮しました。
例えば、無名の画家に公演のポスターを描かせると、盗難に遭うほどの大人気になりました。
それがアルフォンス・ミュシャでした。

・アルフォンス・ミュシャ作 「ジスモンダ」1894年

サラの代表作「椿姫」のポスターもミュシャが描いています。サラは、他の公演用のポスターもミュシャに託していました。

ルネ・ラリックも、舞台用の装飾品をサラに依頼されて才能を開花させた1人です。

岡部昌幸さんは言っています。
「サラ・ベルナールのもとで数多くの芸術家が誕生しました。気がついてみると、そこにはアール・ヌーヴォーと呼ばれる装飾美術の大きな転換、うねりが起きて、そしてベル・エポックのパリの華麗な世界が生まれていったのです」


オーギュスト・エスコフィエの名言とサラ・ベルナール

ある日レストランを訪れたサラは、その料理を気に入り、シェフをテーブルに呼びます。
そのシェフとは、後に近代フランス料理の父と呼ばれるオーギュスト・エスコフィエでした。
今をときめく女優と、天才シェフとの出会い。サラが30歳、エスコフィエ28歳のことでした。

エスコフィエは、サラにこう語ったといいます。
「劇と料理は似ている。料理人は演出家、料理とワインは俳優で、お客様は観客だ」
この言葉が、サラを魅了しました。

エスコフィエも、サラからインスピレーションを得て、フレーズ・サラ・ベルナールを作ったのです。サラは、思わぬデザートの登場に感激して、おいしそうに食べたとか。

岡部昌幸さんは、「サラ・ベルナールを色彩的にもイメージ的にも象徴し、彼女のバイタリティーを可愛いスイーツにしたのが、非常に洒落ていると思います。サラ・ベルナールに対する礼賛ですね」と言っています。

エスコフィエとサラの交流は数十年に及び、サラの誕生日にはエスコフィエが腕をふるい、2人でディナーを楽しんだとも言われています。

エスコフィエが作ったスイーツの他にも、世界には、サラの名を持つスイーツがあります。
5大陸を巡って活躍していたサラは、世界をも感化させる影響力を持っていたのですね!

スウェーデンには、“サラ・ベルナール”というクッキーが。
メレンゲのクッキーの上にバタークリームをのせて、チョコレートでコーティングをした定番スイーツです。

また、オーストリアには、ナッツの粉を入れたメレンゲ生地に、チョコレートとモカのクリームを重ねた、見た目もゴージャスな“サラ・ベルナール・トルテ”。ドイツやデンマークでも食べられているそうです。

どれもお洒落、そしてどこか個性的で気品を感じるスイーツ。
当時の人のサラに対するイメージや、憧れが伺えますね。


グレーテルのかまど サラ・ベルナールに捧げられたスイーツ”フレーズ・サラ・ベルナール”

フレーズ・サラ・ベルナールを作ってみましょう。

👑まず、イチゴでマリネを作ります。イチゴのヘタをとって、半分にし、2種類のお酒をふりかけます。お酒は、1つはキュラソー、もう1つは、ブランデーです。
キュラソーは、イチゴの味を引き立て、ブランデーは、芳醇な香りが加わるので、味と香りに奥行きがでます。
これにラップをして、冷蔵庫で1時間以上は置くと、味と香りがなじみます。

👑次にパイナップルのシャーベットをつくります。
パイナップルは缶詰でOKですが、生のパイナップルを使う時は、砂糖を多めにするのがポイントです。
フードプロセッサーに、パイナップルを入れて砂糖とレモン汁と一緒にシェイクします。
バットに1cmの薄さに広げて、冷凍庫で2時間ほど冷やします。
固まったところを、もう一度シェイクします。(掟1 ダブルシェイクでなめらかに)
二回シェイクすることで、お店のジェラートのようになめらかになります。

👑キュラソークリームを作ります。
生クリームに粉砂糖と、キュラソーも加えて泡立てます。
軽く角が立つたら、青の色粉をほんの少し入れます。市販のブルーキュラソーを最初に入れても良いです。

👑シュクル・フィレ(飴細工)をつくります。
鍋に砂糖を先に入れると焦げやすいので、先に水を入れておきます。
そこに、砂糖と水飴を測って入れるのですが、水飴はネバネバとくっつきますので、砂糖の上にあらかじめ測ってのせておくと、鍋に入れるときに、苦労しません。
全部加えたら、火をつけます。

少し色づいて飴色になったら、水の入ったボールを用意して、鍋ごと10秒くらいジュッとつけます。ここで、火を通し過ぎてはいけません。ほんのり茶色くなったら直ぐに火から外すのがコツです。(掟2 ほんのり茶色を見逃すな)
飴をフォークですくって垂らしてみて、1本の細い糸みたいに切れないようにツーッと落ちるくらいになったらOKです。切れてしまうようなら、5分くらい冷まして飴が少し固まるのを待ちます。

飴が適当な硬さになったら、高いところから、糸のように細く飴を垂らして、細い糸の飴細工を作ります。

👑最後に、全部を組み立てていきます。
カクテルグラスに、パイナップルのシャーベットを3分の2程度、盛りつけます。
そこにイチゴをのせます
その上にキュラソーのクリームをのせ、最後に冠のように飴を載せます。

華やかな洋酒の香り漂うフレーズ・サラ・ベルナール。
ひんやりとしたパイナップルシャーベットに、ジューシーなイチゴ、そして、飴のぱりぱりした繊細な食感が加わった絶妙なハーモニー。
伝説の女優の名にふさわしい、華やかな味わいなのでしょうね。

グレーテルのかまど 番組特製レシピ

~ミューズにささげたフレーズ・サラ・ベルナール~より
フレーズ・サラ・ベルナール
レシピ監修 エコール辻 東京 岡部由香先生

https://www.nhk.or.jp/kamado/recipe/318.pdf

グレーテルのかまど「ミューズにささげたフレーズ・サラ・ベルナール」を観て

フレーズ・サラ・ベルナールは、かわいらしい、甘いというスイーツのイメージを超えて、スタイリッシュで情熱的、気品さえも醸し出す大人のスイーツ。

彼女の名言に、
「命が命を生み、エネルギーがエネルギーを生む。自分自身を投じることによって、人は豊かになる」という言葉があります。

この言葉どおりの人生を駆け抜けた彼女へのオマージュ。
彼女と長年の親交があった、オーギュスト・エスコフィエならではの表現だったのだなと、私は思いました。


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