2020年8月30日 23時からの「情別大陸」は、演出家、金谷かほり。
彼女は、B’z、倉木麻衣、Little Glee Monsterなどの有名アーティストのライブ演出を担当する、有名な演出家です。
そして、彼女が演出家として手掛けるのは、アーティストだけではありません。
ユニバーサルスタジオジャパンやハウステンボスなど、国内外のテーマパークのショーやパレードの演出にもその実力は発揮されています。
金谷の演出のモットーは、“誰でも平等に楽しめること”。
かつて自らがダンサーや振付師だった経験をベースに、子どもからお年寄りに至るまで、全ての人の心を動かすことを目指しています。
彼女は、自身のことを「ファンタジー人間、ちょっと恥ずかしいおばさん」と評していますが、そこに立場を取り続ける芯の強さと大きさを感じます。
突然訪れた、未曾有の新型コロナウイルス騒動。
テーマパークのショーやアーティストのライブは「密」を生み出すと、一切の活動が停止してしまいました。
人々が集まって楽しむことが奪われてしまった今こそ、どう動くのが自身のモットーを体現できるのかを彼女は考えたのだと思います。
そして、金谷かほりは、自身初の「自主公演」をすることを決めて動き始めました。
どこから依頼されるでもなく、自ら、ミュージカルの様な総合エンターテインメントパフォーマンスの企画を立ち上げ、演出はもとより脚本・選曲をも全て自分で手掛けます。
ここに至った彼女の葛藤や想いはどんなだったのでしょうか?
情熱大陸 金谷かほりの経歴とユニバーサルスタジオでの演出
金谷かほりは、1961年、群馬県生まれ。
有名アーティストのライブ等の演出のほか、国内外数々のテーマパークでのショーの演出を手掛けています。
かつては、「吉本印天然素材」の振り付けも担当していました。
また、大学でエンターテインメントについての教鞭も執っています。
ユニバーサルスタジオジャパンでの演出は、2001年の開業当初から、ハロウィンやクリスマスショーなど目玉イベントを手がけています。
昨年(2019年)11月、取材が始まったばかりのある日、取材陣は、都内の子ども向けミュージカルの打ち合わせに向かう金谷に、同行していました。
演出の依頼は、お尻の顔をした探偵が主役の「おしりたんてい」のミュージカルです。
キャラクターの着ぐるみにも、金谷は具体的な指示を出していたらしく、「動いたときに揺れるような感じが欲しかった。光やツヤもいいし」と、できあがったキャラクターの顔部分は、金谷が指示した通り、本物のお尻みたいな質感に仕上がっていました。
この打ち合わせが終わると、金谷は急いでタクシーに乗り込み、次なる仕事場へ向かいます。
この日東京での打ち合わせを終えた金谷には、大阪で仕事が待っていました。
東京-大阪間を1日で往復して仕事をすることは、しょっちゅうあることなのだとか。
私など、よく体力が持つな、と思ってしまいますが、彼女にとっては、仕事へのわくわくのほうが大きいのかもしれません。
取材が始まった頃、金谷はまさに引っ張りだこで、スケジュール帳も1年先まで休みなしが当たり前の状態でした。
大阪の仕事は、ユニバーサルスタジオジャパンのクリスマスショーのリハーサルチェックでした。
アメリカ発祥のテーマパークはスタッフの多くが外国人。
その中で金谷は、照明や音響の修正点を指摘していました。
ステージの隅から隅までを観客の目線に立って見つめると、自ずと問題点が浮かび上がってくるのだそうです。
金谷の目は、細かいところも見逃しません。
ステージに当たる照明の反射が壁に当たり、左右の同じ模様部分の明るさが異なって見えてしまっていました。
床を黒く塗るほうがよいのかを判断するために、スタッフが黒い布をステージに敷いてみます。
床を黒くしたほうが、左右の光の調和がとれるようです。
金谷は、言います。
「全部、細かい事の積み重ねだから。だって、せっかくやるんだから、やっぱり完璧な方がいいんじゃないかと思うんです」
ファンタジーの演出は微妙なさじ加減が問われるものなのですね。
この日は、朝の7時まで、金谷はテーマパークでの仕事をしていました。
細かい演出を積み重ねていくのが金谷かと思えば、一方で大胆な演出も金谷の持ち味なのです。
同じく、ユニバーサルスタジオジャパンの「ユニバーサル・サプライズ・ハロウィン2019」では、テーマパーク全体を舞台に見立てて、ゾンビをいたるところに出現させる演出をしました。
不意打ちの遭遇に、来場者が驚くと言う仕掛けです。
驚いたことに、ゾンビには、それぞれキャラクターとストーリーを細かく設定していたのだとか。
ゾンビを演じる役者たちの、表情や動作、メイクにも映画の世界観を反映し、本物さとクオリティーを追求していました。
1体1体個性あるゾンビたちとの遭遇を、来場者たちが存分に楽しむためのこだわりには、際限がないのが金谷流。
彼女は、どんなお客さまでも、とことん楽しんで貰えるように工夫をする、がっかりさせない、それがモットーなのだそうです。
テーマパークや、ライブなどを訪れる人は、非日常を味わいに現地に来ている人たち。
人が根源的に渇望するものは何かを彼女はいつも考えているということなのかしら、と私は感じました。
【金谷かほりの演出経歴】
「ドラゴンクエスト ライブスペクタルツアー」
「有名アーティストのライブ演出(B’zや倉木麻衣)」
MBS「金閣寺音舞台」
「ユニバーサルスタジオジャパン」
「ハウステンボス」【金谷かほりの主な受賞歴】
2009年 「 IAAPA Big E Awards 」
2013年 「 IAAPA YHEA AWARD 」
2014年 「 アウトスタンディング・アチーブメント賞 」
情熱大陸 金谷かほりの演出のヒントとその源
常に観客の目線に立つことを怠らない金谷の、演出のヒントはどこにあるのでしょうか。
金谷は暇を見つけては、書店に通っていると言います。
書店で読むのは、なんと!子供向けの本。
飛び出す絵本を次々と手に取ります。
金谷は、まるで子どものように、取材陣に説明をしていました。
「これすごいのよ。ロバート・サブタさんは、飛び出す絵本で有名で、私は全部持っているの」
「見てくださいよ!舞台美術みたいになっている」
確かに。ページをめくるたびに、細かく紙で組まれた立体的なページが躍り出て、その複雑さと意外性にわくわくします。
「立体感とか世界観がすごいなぁって、いつも思っていて、ページをめくったときの喜びってあるじゃないですか。一目でショー全体の印象が伝わる画作りをしたいから、1ページずつ、めくったときの感動があるようなショーにしたいと思っているんです」
金谷は、幼い頃、オリンピックで見たコマネチ選手に憧れて、体操やバレーを習うようになったといいます。
21歳の時、テーマパークのダンサーとして舞台に立つようになり、わずか3年後、腕を買われて演出も手掛けるようになったそうです。
その後、人に感動を与えることをなりわいとする仲間を引っ張ってきた金谷。
そんな金谷を、仲間たちは本当に愛しています。
今年(2020年)2月の金谷59歳の誕生日には、同じエンターテイメントの世界に生きる、金谷を慕うメンバーが集まって、お祝い会が開催されました。
彼女はそこで、涙ぐみながら、こんなことを言っています。
「人生は、誰と出会って、何をするかだけだと思うんです。ずっと(演出を)やってきて、一緒にいてくれる人がいることが、すごくありがたいです。「なんで私みたいな人に」と思ってしまいます」
情熱大陸 金谷かほりの演出の新境地。自主公演 “CLUB BERONICA”で
エンターテインメント業界は、新型コロナウィルスの影響を、もろに受けることになりました。
「密」を生み出す可能性があると、仕事も減り、金谷も収入がガクッと減ったと言います。
「エンターテインメント業界は、変わるんでしょうか?」という取材陣の質問に、彼女は、「変わるとは思うけど、どんなにオンラインとか映像で、となっても、絶対に劇場に来て感動を味わいたいっていう人はいるんです。人は人がやっているものを観たいんですよ」
“人は、人がやっているものを観たい”
彼女の、この人の心理を見抜いている言葉に、あらゆるエンターテインメントを動かすことで得た彼女の哲学を感じます。
そして、私は追加して思いました。
そこで得る感動を、観客も演者もスタッフも同じ空気の中で波動のように一緒に感じたいと願っているのではないかと。
エンターテインメントは、不要不急だとの声もある中、絶対にエンターテインメントが必要だと、諦めない!と金谷は動き出しました。
彼女は言います。
「すごく実力のある人たちの発表の場がなくなっていて残念だと思った時、ふと、そういえば!この実力のある人たちが、今、大阪に揃っていることに気づいて。これってすごいとことだと思ったら、何かやりたいなぁと思えて、やることにしました!」
やることにしたのは、自腹を切って自ら舞台を開催することでした。
金谷自身、初めての試みでしたが、オリジナルの脚本を書き、自分で資金繰りをして、キャストを集め、場所を取り、さまざまな準備をしてパフォーマンスショーの開催を決めました。
資金は自身の持ち出しのため、準備段階から、既に赤字であったものの、彼女は生き生きと「でもいいの。やりたいから」と語っていました。
金谷の呼びかけに、メンバーは直ぐに集まりました。
シンガー、ダンサーなど8名。皆、金谷のステージに立った経験があります。
初顔合わせの時、出演者は、口々に感謝を金谷に伝えていました。
「本当にありがとうございますこんな貴重な機会をいただけて」
シンガー木村梨愛は、「もともと新型コロナで仕事がなくなってしまって、金谷さんに仕事どうなったって言われて、今はできない状態ですって言ったら、いつでも言ってねって言われて」
ダンサー熊谷佳久は、「今エンタメの世界が大変な時期ですけど、こういう風に踊れる機会を作ってくださっただけで、すごく頑張ろうって気持ちになるし、お客さんにもそういう機会を与えられるって、すごいなぁって思う」
舞台の話は、今は亡き1人の女性をめぐって、男たちが思い出を語り歌うという物語です。
稽古初日、熱気の中終わった後、金谷は、取材陣の「どうでしたか?」の質問に、こう答えています。
「みんながめっちゃ準備してくれていて、みんなその道のスペシャリストでとても才能のある人たちなので、やっぱり素晴らしいなぁと思いました。なんか自分が大丈夫かって、自分が心配になりました」
出演者のシンガー、ダンサーは、どう見ても20代から30代前半くらいの若者たち。
ジェネレーションギャップを感じさせず、むしろみなが彼女に、自分の演出が良いかを尋ねている様子は、彼女が、若者よりも経験が豊富であるを超えて、彼らの感覚よりも先端をいっているというか、新しい斬新なものへの許容量が大きいんだろうな、と思いました。
本当に素晴らしい!!
そして、彼女の言葉を書き記している私は、彼女の率直で、そして若者っぽい、人を気遣うやさしい言葉づかいを、そのまま文章で伝えられていない。。。と思っています。
ごめんなさい。彼女の人となりを伝えるための技術が乏しくて。。。
舞台の会場は、ライブハウス”CLUB BERONICA”です。
大きな会場を多く扱ってきた金谷には、会場は小さいかもしれません。
120人には入る会場ですが、感染予防対策のため今回は60人しか入れることはできません。
チケットは既に完売していました。
本番まであと3日。
金谷は、ダンスの振り付けを依頼した、24歳の齋藤駿から、振り付けの確認依頼を受けていました。
金谷は、若手にチャンスを与えることも忘れず、今回も敢えて若手の彼に振り付けを依頼しました。
彼の振り付けに、金谷は「Go」サインを出しました。
金谷は言います。
「観客との距離と会場のサイズで、振り付けは、だいぶ違うんですよ。例えば、今、駿が作ってくれた振り付けは、今回の会場ベロニカの舞台サイズには、バッチリ合っているの。細かい動きがいっぱい入っていても、表情もよく見えるところに観客がいるから。だけど、大規模な舞台、例えばクリスマスショーだと、動きがほぼ見えないので、アプローチを変える必要があるのよね」
難航していたのは、ダンスパフォーマンスの最後のポーズ。
金谷がアドバイスをします。
「最後、メンバーが集まったところをお客さんみたいと思うのよ。「きゃーかっこいい」と思うわけ。そこから散らばって最後全員壁じゃないかな。こう壁でキメ顔じゃないな」
限られた条件の中で、金谷含めメンバーそれぞれが夢中になって舞台を作っていました。
そして最後の練習は終わった後に、金谷は取材陣に語りました。
「本当にみんなすごくやってくれて、初めて儲かりなりたいなぁ、と思ったんですね。それはね、彼らにちゃんとお金を払いたいなぁ、と思ったから。今までお金を儲けたいと思ったことなくて、思ったのは初めてかなぁ」
エンターテインメントで観客を喜ばせたい、という想いで今まで突っ走ってきた彼女が、初めて、エンターテインメントに取り組む仲間の想いを成就させたいという想いにも至らせた今回の自主公演。
何か大きな変化を、これからのエンターテインメント業界に呼び起こしそうな予感がするのは、私だけでしょうか?
この心境の変化は、これからどんな風に広がっていくのかが楽しみです。
迎えた本番当日2020年8月21日。
幕が開くことを心待ちにしていたのは、金谷や演者だけではありません。観客たちも同じでした。
演者たちは、思いっきり歌い踊り、人前でパフォーマンスする喜びをステージ上で表現しています。
およそ1時間のステージ。
それを見守る金谷の胸には、どんな思いが去来していたのでしょうか。
最後のセリフに込めた、金谷の今伝えたいメッセージが舞台から語られました。
「今日と言う日が、皆さんにとって良い思い出となりますように。そして、心の中にある悲しみや苦しみ寂しさの答えも、愛でありますように」
この思いは、観客に届いたようでした。涙をおさえながら聞き入る観客たち。
観客たちは、インタビューにこう答えていました。
「すごいよかったです。観劇するのが好きなんで、久しぶり見られてよかったなぁと思います」
「エンターテイメントは、生活に必要ないと言われながらも、見ないと心がもたない感じなので、ちょっとずつみんなが元気になれて、エンターテイメントがちょっとずつ、復活できればすごく嬉しいです」
金谷は公演後、こう語っています。
「やれて良かったなと思いました。いつか誰かがショーを作らなくていいよ、と言ってくるか、頼んでくれなくなった時、または、自分がもう作る気持ちがなくなった時は、辞める時だと思っている。まだまだやりたいなぁと思います。どんな小さなショーでも作りたい」
追加公演が決まったそうです。
素晴らしい!!
彼女のエンターテイメントの火を絶やすわけにはいかない、に賛同する人々が作る、大きな力が彼女を前に押し出していくことになるのではないかと思いました。
情熱大陸 金谷かほりのエンターテイメントを諦めない!と観て
コロナの影響で打撃を受けているエンターテインメント業界ですが、彼女のエンターテインメントが絶対に必要!という信念に感服しました。
強い信念ではあるのですが、ごく自然に感じてしまうほど、気負いのようなものを彼女からは感じなくて、心地よい気さえしてしまうのが不思議です。
「きっと、そうだね」と、相手に言わせてしまうようなしなやかさを彼女に感じるのです。
素敵だなーと思いました。
そして、彼女の自主公演。
番組の一部でその様子が放映されていましたが、若手のシンガーやダンサーが素晴らしい歌声と、キレッキレのダンスを披露していて、わぉ、見に行きたい!!
そして、シンガー、ダンサーがおそろしくみんな美形でステキすぎて、これを生で見たい!という邪心めいた興味もありで、でもきっとこれも彼女の演出の一環なのだ、彼女の魔力の虜にされたのだと、私は信じることにしました。
追加公演が、何回も行われて、私にも観にいくチャンスがくることを、心密かに願っています。
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