2020年10月26日の「グレーテルのかまど」は、「ヘンリー8世のメイズ・オブ・オナー」(初回放送:2019年11月4日)。
「メイズ・オブ・オナー」は、イギリスの伝統スイーツの名前ですが、本来の意味は、女官(Maids of Honor)からきています。
このスイーツは、イギリス・チューダー朝の王、ヘンリー8世が愛したスイーツとして知られています。
この王様、生涯に6人もの王妃を迎えいれ、その王妃たちが最後の王妃をのぞいて、ことごとく離婚あるいは、亡くなっていることから、暴君と言われ、また、カトリック教会から決別して、イギリスの礎を築いた名君とも言われるなど、様々な逸話が遺されているのです。
その中に、ヘンリー8世が、この「メイズ・オブ・オナー」というスイーツを、いたく気に入って食した、という逸話があります。
その人生からは、不釣り合いなほどに、ほっとするような話ですね。
このスイーツの名前、「メイズ・オヴ・オナー(女官たち)」は、ちょっと変わっていますよね?
どこから名付けられたのでしょうか?
これは、ある時、ヘンリー8世が、このスイーツを食べているメイズ・オヴ・オナー(女官たち)を見て、自分も食したところ、とても気に入ったことから、その名をつけたと言われています。
あまりに気に入り過ぎたせいか、このスイーツを独占したいと、作った女官を幽閉して、王室の為だけに作らせるようにしたとか、レシピをリッチモンド宮殿内で、鉄の箱に入れて鍵をかけ、門外不出にしていたなどの逸話もあります。
これらの逸話に、信ぴょう性はないと言われています。
きっと、それほどに、美味しいスイーツだったのでしょう。
そして、このスイーツが、「メイズ・オヴ・オナー」という名前で記録されたのは、1769年頃のことと言われています。
いまや、イギリスの伝統スイーツとして、親しまれています。
グレーテルのかまど ヘンリー8世が「メイズ・オブ・オナー」(パイ菓子)のレシピを封印した理由は?
イギリスの人たちにとって、パイは食卓に欠かせないものです。
コーニッシュ・パスティ、ポークパイ、スターゲイジー・パイ、ミンス・パイ、などなど。
食事パイも、デザートも、パイ生地を使った料理がたくさんあります。
そんな中で、ちょっと特別なパイが、「メイズ・オブ・オナー」です。
ヘンリー8世が、このスイーツに出会うきっかけになったのは、2番目の王妃のアン・ブーリンでした。
1番目の王妃、キャサリンの女官であったアンが、「メイズ・オブ・オナー」を他の女官と一緒に食べていたところに、ヘンリー8世が現れたとか。
アンを見初めたヘンリー8世は、キャサリンと離婚をして、アンと結婚するために、離婚を認めなかったローマカトリックと決別し、イングランド国教会を設立します。
イギリス王室の研究で知られる、関東学院大学の君塚直隆教授は、こう言っています。
「イングランド国教会の設立は、その後のイギリスを方向づける出来事でした。
2人の愛が、近代イングランドを築き上げたのです。
それまでのイングランドは、ローマ教皇庁、あるいは、ヨーロッパ大陸の従属国のような存在だったのですが、これによって、独立したイングランドを生み出すことになりました。
『メイズ・オブ・オナー』というお菓子と、それにまつわるエピソードには、その当時の時代背景が、秘められているのではないかと思います」
では、ヘンリー8世が、このスイーツのレシピを封印するため、鉄の箱に厳重に保管したとか、お菓子を作った女官を幽閉したとかというようなエピソードは、どうして生まれたでしょうか?
君塚直隆教授は、
「ヘンリー8世は、非常に魅力的な人物で、いろんな人に愛されたのだと思います。そこから、彼に対する色々なエピソードが生み出されたのでは?」
と、言っています。
ヘンリー8世は、ラテン語、フランス語、スペイン語に精通するなど、語学が堪能な上に、乗馬、音楽、舞踏といったスポーツ・教養部門でも秀でた才能の持ち主で、ハンサムで、体格にも恵まれていたそうです。
そして、生まれながらにして、王様。
何とも素晴らしい!当時の女性たちは皆、この王のファンだったのではないかと推測します。
彼の逸話で一番多いのが、2番目の王妃、アン・ブーリンにまつわるエピソードです。
君塚直隆教授は、こう続けます。
「6人の奥さんがいたんですけど、やっぱりアンのことを1番愛していて、アンが特別な存在だった。それが故に、イングランド国教会まで作ったりしたんですね。
やっぱり、国民の間でも、ヘンリーと言えばアン。
それが、『メイズ・オブ・オナー』のお菓子の逸話に、込められているんじゃないかと思います」
ヘンリー8世が統治していた頃のイングランドは、ヨーロッパの弱小国で、内外で紛争が耐えませんでした。
戦争、内乱、外交問題など、日々悩ましい問題を抱え、暗殺の危機もありました。
そんな時に、メイド部屋に行き、少しの間全てを忘れて、ほっとしてスイーツを味わう。
レシピを封印するほど、このスイーツにこだわったのは、そんな時代背景もあったといいます。
ヘンリー8世は、「メイズ・オブ・オナー」を、単に美味しいスイーツというだけでなく、ほっとできる特別なスイーツとして、愛したのではないかと思われます。
「メイズ・オブ・オナー」は、イギリスの今を作った特別なスイーツ、なのかもしれませんね。
グレーテルのかまど イギリス本場のパイ生地で「メイズ・オブ・オナー」を作ってみましょう!
イギリスの人たちは、パイが大好き!
イギリスの食卓には、欠かせないアイテムなんです。
そんなイギリス本場のパイを、じっくり美味しく作ることにチャレンジです!
味わいの決め手は、“王様もつまみ食い”です。
さっくりなパイと、濃厚なチーズのハーモニーが奏でる、独り占めしたくなるような特別な「メイド・オブ・オナー」を作ります!
■事前準備
・薄力粉と強力粉を合わせてふるい、冷蔵庫で冷やしておく。
・生地で使用するそのほかの材料をすべて冷蔵庫で冷やしておく。
・カッテージチーズを裏ごししておく。
・オーブンを200℃に温めておく。
【パイ生地】
パイ生地のサクサクの食感を楽しめるように、材料を事前によく冷やして、バターが溶けないように手早く混ぜ合わせていきます。
掟 全部ひえっひえ!
1.薄力粉と強力粉を合わせてふるい、ボウルにいれます。
2.そこに、5cm角に切ったバターを入れ、塩、水を入れます。
3.軽く軽く手で押すように混ぜて、ひとかたまりにまとめます。
4.打ち粉をして、台の上に生地をのせて、まとめていきます。
5.途中で、生地を引っ張ってみて、生地が伸びないようなら、乾燥しないようにビニールで包み、冷蔵庫で約30分休ませます
グルテンは、触り続けると、伸びが悪くなってしまうので、しばらく、休ませる必要があります
6.生地がしっかり冷えたら、生地を台に出して綿棒で叩いて、伸ばしていきます。
縦の長さが、横の長さの3倍位の長さになるように伸ばし、それを三つ折りにします。(第1回目)
7.生地を90度回して、再び生地を綿棒で伸ばし、三つ折りにします。(第2回目)
掟 生地は休み休み
8.ビニールで包んで冷蔵庫で約1時間休ませる。
生地を伸ばしたり、折り曲げるなど、かなり触ってしまったので、また冷蔵庫で1時間休ませます。ここで休ませないと、グルテンの働きで生地がのびません。
9.6~8までを2回繰り返します。
10.生地を2.5センチメートルの厚さに伸ばし、冷蔵庫で15分から30分休ませます。
11.型抜きで抜いて、フォークで穴を開けます。
12.型に生地を敷きこみ、型に入れたまま、冷蔵庫で15分~30分休ませる。
生地を焼く前に休ませないと、焼く時に、生地が縮んでしまいます。
【フィリング】
1.カッテージチーズを裏ごししたものに砂糖を入れて、泡たて器でかき混ぜていくと、水分が出て、なめらかになってきます。
2.そこに全卵を加え、レモンの皮と牛乳を加えます。
3.フィリングを、生地を敷きこんだ型の8分目(35~40gずつ)まで入れます。
4.200度のオーブンで40分焼きます。
5.焼けたら型から出して冷まします。 出しにくいときは、型を少し持ち上げ、台に落とすと、外れやすくなります。
保存する場合は密閉容器に入れ冷蔵し、2日以内に召し上がって下さい。 トースターで軽く温め直すとおいしく召し上がれます
サクサクのパイに、レモンが爽やかに香る濃厚なチーズのフィリングが、とても美味しいパイの出来上がりです!
■ 材料 (7cmタルト型 24個分)
<生地>
薄力粉 125g
強力粉 125g
塩 5g
水 125g
無塩バター 225g<フィリング>
カッテージチーズ 300g
グラニュー糖 90g
全卵 300g
牛乳 300g
レモンの表皮(国産)1個分(出典:NHK グレーテルのかまど ~ヘンリー8世のメイズ・オブ・オナー~より メイズ・オブ・オナー レシピ監修 エコール 辻 東京 中濱 尚美 先生)
グレーテルのかまど ヘンリー8世の門外不出のレシピ「メイズ・オブ・オナー」が味わえる店!
ヘンリー8世を虜にした「メイズ・オブ・オナー」は、どんなスイーツなのでしょうか?
見た目は、エッグタルトのようですが、パイの生地の中に、カードチーズのフィリングを詰めて焼いた、小さな焼き菓子です。
食べると、外側のパイ生地がサクサクと風味があり、真ん中のチーズのフィリングが柔らかく、甘さと塩味が良いバランスを保って、美味しさを引き出しています。
ヘンリー8世が食べたであろうレシピが、ロンドンのキューガーデン近くにあるティールーム“Newens The Original Maids of Honor(ニューエンズ・オリジナル・メイズ・オブ・オナー)”に、引き継がれているといわれています。
門外不出とされたレシピは、その後、リッチモンドのパン屋に開示されたようですが、そのパン屋に見習いとして働いていた若者が、リッチモンドに店を構えて、「メイズ・オブ・オナー」を提供したそうです。
そしてその店は、1860年に、今のキューガーデン近くに移転し、今もその味を伝え続けているのだとか。
大切に守られ、伝えられてきたレシピで味わう「メイズ・オブ・オナー」は、王室の味!
今も、観光客から地元の常連さんまで、この味を求めて、お店を訪れます。
多い日には1日100個以上も売れるのだそうです。
ある男性は、こう言っています。
「25年通っていますが、毎回、『メイズ・オブ・オナー』を買います。ここのは、ヘンリー8世の秘密のレシピだと聞いています。外では食べられないお菓子なんです。とてもおいしいです」
お店のティールームでは、「メイズ・オブ・オナー」を食べるお客様が、多くいます。
「伝統の味ですよね。毎回食べるのが楽しみです」
「アン・ブーリンが、500年前に食べたものを味わえて、うれしいわ」
いったいなぜ、封印されたはずのレシピが、この店に伝わったのでしょうか?
店主、ディーン・マーティンさんが、教えてくれました。
「18世紀に、何者かが、王室からレシピを流出させました。
そのレシピを手に入れたニューエンズ氏が、この店を開きました。
この店だけが、レシピを受け継ぐことになったのです」
受け継がれたレシピは、今も極秘で、お店の金庫に、厳重に保管されています。
さらに、それを作る職人たちも、レシピを守ることを約束して、雇われるのだそうです。
そして、職人には、レシピを秘密にするように、サインしてもらっているのです。
ディーン・マーティンさんは、言います。
「私たちの役目は、このレシピを守っていくことだと思っています。この店は、168年続いてきたのですから、オリジナルの『メイズ・オブ・オナー』には、それだけの価値があるのです」
現在のイギリスを作るのに貢献したスイーツ、当時をしのぶ、ロマン溢れるスイーツとして、そのレシピは極秘のままが良いのかもしれませんね。
グレーテルのかまど イギリス王室に愛された、クィーン エリザベス ケーキ、シラバブ、チョコレートビスケットケーキ
イギリス王室は、スイーツがお好き!
どんなスイーツが好まれたのでしょうか?
・クィーン エリザベス ケーキ(Queen Elizabeth Cake)
エリザベス1世が愛したお菓子と言われています。
トフィー&ココナッツのトッピングを、こんがり焼くのが特徴の濃厚で甘いケーキです。
エリザベス1世の統治下、七つの海を征服し、世界中から集められた、たくさんの種類のドライフルーツをラム酒に漬け込んだり、砂糖漬けにする加工法が進化しました。
そのドライフルーツに、スパイス、ナッツ類も一緒に入れ込んで焼き上げる、フルーツケーキが考案され、「クィーンエリザベスケーキ」と名付けられました。
現エリザベス2世戴冠の1953年に、振舞われたケーキと言われています。
・シラバブ(syllabub)
17世紀のチャールズ2世のお気に入りで、セントジェームズ・パークに牛を飼い、のどが渇いたらその場でシラバブを作って飲んでいたそうです。
当時は、できたての温かい牛乳に、スパイスをきかせたシードル(リンゴ酒)や、エール(ビールの一種)に入れ、表面にできる凝乳(ぎょうにゅう)の下にできる乳清(にゅうせい)が、一般的なシラバブだったそうです。
今は、新鮮な生クリームに、白ワインと砂糖を入れて泡たてたものを指します。
・チョコレートビスケットケーキ
エリザベス2世が、旅に出る時は、ケーキ専門のシェフを同行させるほど、愛してやまないスイーツと言われています。
美味しそうですね!
グレーテルのかまど 「ヘンリー8世のメイズ・オブ・オナー」を観て
伝統あるスイーツには、さまざまな人の思いや歴史、文化までも含んで、味わい深く、単なるスイーツの域を超えているように感じます。
「メイズ・オブ・オナー」は、イギリスの人たちにとって、その美味しさは勿論のこと、思い入れの多い、味わい深いスイーツなのでしょうね。
スイーツを前にすると、思わず日々のさまざまなことを忘れて、笑顔になれるのが、本当に不思議ですよね。
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