2020年8月2日の「情熱大陸」は、ピアニスト反田恭平(そりた きょうへい)。
彼は、4年前の21歳のデビュー当初も「情熱大陸」に出演しています。
「もっと聴いてもらいたい」とピアノと向き合う反田恭平。
音楽と聴衆を結ぶことに、一心に情熱を傾けて弾く姿と演奏の素晴らしさに感動して、惹き込まれます。
反田は、より自由な活動を展開したいと大手事務所から独立して個人事務所を立ち上げ、2019年には自身の音楽レーベルを立ち上げています。
精力的にCDを発表し、コンサートの企画や、オーケストラをプロデュースするなど、ピアニストの肩書では足りない活躍ぶりです。
「クラシック音楽に生かされている男」と自称する彼が、コンサートの開催が難しいこの環境下、コンサートの新しい形を目指して奔走する姿が、放映されました!
ピアニスト反田恭平のチケットは、日本で最も取りにくいピアニストの1人
ピアニスト反田恭平は、2013年にチャイコフスキー記念国立モスクワ音楽院に首席で入学し、2015年にはイタリアで行われている「チッタ・ディ・カントゥ国際ピアノ協奏曲コンクール」古典派部門で優勝、同年には、CDデビューも果たしています。
また、2016年のサントリーホールで行われたデビュー・リサイタルでは、2000席が完売になる人気ぶりでした。
反田は、卓越した技術に、豊かな表現力と情熱的な演奏で、瞬く間にファンを増やし、今、最もチケットが取れないピアニストとも言われています。
彼の演奏に感銘を受けた、タカギクラヴィアの高木裕社長は、20世紀を代表するピアノ奏者、ホロヴィッツが愛したというピアノを提供したといわれています。
反田は、音楽関係者ではない両親のもとで育ちながら、11歳から本格的にピアノを始めたそうです。
プロとして活躍する音楽家は、幼少期から英才教育を受けているイメージがありますが、彼は全くそんな環境にはなかったんですね。
小さい頃は、サッカーに夢中だったとか。
だけど!「ピアノがあるから自分がある」という意識は持っていたそうです。
そんな反田が、コンサートがまともに開催できないこの環境下、
「50年後につながる音楽会を、今、考えなければいけない。色々な壁があると思うけど、その壁を乗り越えると、新しいことができる」
と、八方塞がりの今こそ、日本のクラシック業界の発展のために、何とかして1人でも多くの人に音楽体験を伝えたい、と奔走する姿が「情熱大陸」で放映されました。
オンデマンドコンサートに反田恭平が初めて挑戦!
3月の時点で、夏までのコンサートは、すべて中止もしくは延期が決まっていましたが、そんな中、反田恭平は、新しい形でのコンサートの実施を目指して、奔走していました。
反田恭平が挑んだのは、“無観客コンサートの有料配信”。
反田はいいます。
「今、無料のオンデマンドのストリーミングコンサートが始まってきている中で、いつまでも無料にはできないだろうと思っています。その為に、お金をアーティストに還元することができるコンサートを作っている最中です」
“オンデマンドコンサートHand in hand”の第一回目を2020年4月1日に実施することを決めて、ホールを予約しました。
今でこそネットを通じての無観客liveの有料配信は、実施されてきていますが、この時点では、クラシック業界では誰1人実現させたアーティストはいない状態でした。
本番を1週間後に控え不安気なスタッフを前に、プロデューサーとして、反田は力説していました。
「延期してはいけない。有料配信は誰でも思い浮かぶので、先にやらないと意味がないかもしれない、これが1番怖いところ。だから、無理難題なスピードだけど、何とか生み出していきたい」
表現の場を奪われた音楽家たちを集めて一夜限りのオーケストラを編成しようと、反田は、出演交渉から、リハーサルのスケジュール調整や、ファンにメッセージを伝える動画の撮影まで、全て自分で行っていました。
3月末、新型コロナウィルスの感染者が少しずつ増加し、政府から「10人を超える集まりは避けるように」と国民に訴えがなされました。
出演依頼をした演奏家たちから、懸念の声が届きだしました。
「集まるのは、今こそダメです」
「私は、この活動に残念ながら賛同できません」
「手を取り合わないことが、今できる最善の手段」
でも、反田の開催の意思は変わりませんでした。
コンサートの演目を変更し、少人数の楽曲に改め、出演するかどうかは、演奏家(アーティスト)たちの判断に委ねました。
その時の反田の想いが、Hand in hand(オンデマンドコンサート)のVol.1のチケット申し込みサイトに掲載された、観客あてのメッセージから伺えます。
「この数日間で刻々と変化する情勢を慎重に考えた結果、アーティストおよびスタッフの安全を考え、少人数編成での開催とし、出演者とプログラムを変更させていただくことにしました。そこで今回は木管楽器の魅力と素晴らしさをお伝えできれば思っております・・・・(中略)・・・一方、心配や不安があるというメッセージもいただいており、自分自身が今何を一番大切にし、何をやるのが良いのかあらためて考えさせられています。その中で出した結論がこの時期だからこそアーティストである我々が演奏する場所を確保し、皆さんに音楽をお届けし続けることが必要だと感じています」
(出典:Hand in hand(オンデマンドコンサート)のVol.1のチケット申し込みサイトより)
本番まで、あと4日。
自身も、楽曲の変更により、譜読みを1からやり直す必要があります。
本番2日前の3月30日、アーティストたちと初めての音合わせに臨みました。
強引なスケジュールにもかかわらず、参加者は皆、反田の心意気に感謝し、出演を快諾してくれました。
練習会場に現れたのは、フルート奏者の、清水 伶と山本英。
反田が、その才能に、かねてから注目している2人でした。
反田のリードによって、2人の緊張が解けていき、完成度の高い演奏になるのに時間はかかりませんでした。
フルート奏者の清水は、練習後、新たな気づきに思わず声をあげていました。
「すごく有意義な時間だった。普段、伴奏ピアニストが弾くのけれど、コンサートピアニストが弾くと、本当に違う発見がたくさんあって」と。
若手の演奏者の新たな気づきの提供や成長に、この企画が一枚かんでいるのも、反田の常日ごろからの想いがそこここに、溢れているからなのかもしれません。
慌ただしく迎えた本番当日4月1日。
ホールには、朝から撮影や音声収録の機材が持ち込まれ、別室には動画配信のシステムが組まれるなど、準備が進められていました。
今回の配信には、クラシックではなかなか撮らない真上のアングルからの撮影など、無観客の環境を逆手にとった映像にするなどの工夫もされていました。
演奏するのは全部で7曲。
午後7時、配信が始まると、1000円のチケット代を払う視聴者が徐々に増えてきました。
演奏するアーティストにとって、目の前には居ないながらも、観客の存在が大きな励みになったに違いありません。
演奏したアーティストは口々に感謝の声をよせていました。
ファゴット奏者、皆神陽太は、「反田さんの切り口がすごく斬新で、お声掛けいただいた時に、あーその手があったかとすごく納得しました。いろんな情勢とか意見がある中で、すごく良いバランスのアイデアだなと思っています」
クラリネット奏者、アレッサンドロ=ベヴァラリは、「本当に大切なコンサートです。友達が音楽を聴いて、とても楽しい気持ちになる」
観客からの反響が、リアルタイムで返ってきました。
「久しぶりのコンサートでうれしかった」
「心に潤いでした」
「音楽はやっぱ必要!」
「涙腺崩壊」
「ブラボー!ブラボー!」
「これからも状況に負けずに前進してください」
「小学生の娘と聞いています。一言で言って最高!」
反田恭平と上野耕平のトークの際に、観客からのメッセージが読み上げられました。
「初めての試み、楽しみに拝聴しています。上野耕平さんと、反田恭平さんのトークも最高です。一歩進んだ新しい音楽シーンの瞬間に立ち会えて感激です」
この激励の言葉に、思わず声を詰まらせた反田には、ここまでに来るまでのさまざまな想いがよみがえってきたのかもしれません。
反田恭平が、年上の大先輩に今回の企画の相談をしたところ、「君がやるべきことは、音楽で立ち上がること」という言葉をいただいたとか。
この言葉、まさしく反田の在り様を言い得ているな、と思いました。
コンサートは無事に終了し、新しい音楽の形を楽しんだ観客は2000人あまり。
クラシック音楽では、ホールが観客で満席になったという人数で、大成功でした。
反田は、コンサート終了後にこう語っていました。
「この一週間は、本当に長かった。「開催します」と夢を言って、実際に実現したというのは相当なこと。本当に良かった。みなさんのおかげです」
逆境にもめげずに貫かれた、反田の純粋な音楽への想いに、観客も、演奏家も、周囲も、世の中さえも、大きく心を動かされたことは、間違いないと思います。
■MEMBER
ピアノ:反田 恭平
サクソフォン:上野 耕平
フルート:清水伶
フルート:山本英
クラリネット:アレッサンドロ・ベヴェラリ
オーボエ:荒川文吉
ファゴット:皆神陽太
ファゴット:大内 秀介
■PROGRAM
1.シューマン=リスト:献呈
ピアノ:反田恭平
2.ウェーバー:アンダンテとハンガリー風ロンドOp.35
ファゴット:大内秀介 ピアノ:反田恭平
3.デザンクロ:プレリュード、カデンツァとフィナーレ
サクソフォン:上野耕平 ピアノ:反田恭平
4.プーランク:オーボエ、ファゴットとピアノのための三重奏曲
オーボエ:荒川文吉 ファゴット:皆神陽太 ピアノ:反田恭平
5.ドップラー:2本のフルートのためのソナタOp.25より
フルート:清水伶・山本英 ピアノ:反田恭平
6.ドビュッシー:プレミエ・ラプソディー
クラリネット:アレッサンドロ・ベヴェラリ ピアノ:反田恭平
7.バザン:ロマンス
サクソフォン:上野耕平 ピアノ:反田恭平
(出典:Hand in hand(オンデマンドコンサート)のVol.1のチケット申し込みサイト & 8/2放映の「情熱大陸」より)
反田恭平のHand in hand(オンデマンドコンサート)の今後は?
反田は、第1回目のHand in hand(オンデマンドコンサート)を終えた後、早速、第2回目に取り組んでいます。
2回目のHand in hand(オンデマンドコンサート)は、2020年6月28日(日)14:00から80分程度で、開催されました。
もともと、7月1日、2日に予定されていた「反田恭平×務川慧悟 2台ピアノの世界」のコンサートを、有料のオンデマンド配信に変更しての企画でした。
Hand in hand Vol.2
PROGRAM
1.ラモー:ガヴォットと6つのドゥーブル
務川慧悟
2.ラヴェル:スペイン狂詩曲
Primo 務川慧悟、Secondo反田恭平
3.モーツァルト:2台ピアノのためのソナタ ニ長調 K.448
Primo 務川慧悟、Secondo 反田恭平
4.ラフマニノフ:2台ピアノのための組曲第2番 Op.17
Primo 反田恭平、Secondo 務川慧悟
(出典:Hand in hand(オンデマンドコンサート)のVol.2のチケット申し込みサイトより)
7月に入って、コロナをめぐる状況は、ますます混迷を深めています。
それでも反田は、配信コンサートのショーアップを模索し続けていました。
第3回目のHand in hand(オンデマンドコンサート)が2020年7月18日に開催されました。
彼自身がプロデュースするMLMナショナル管弦楽団と、特別ゲストの演奏者が、昼と夜の二部構成で演奏する豪勢なプログラムで実施されました。
反田は、若手のオーケストラを率いて、ピアニストが指揮をする指揮振りにも挑んで見せています。
反田は、「音楽家」を目指していると言います。
彼の言う「音楽家」とは、ピアノを演奏するだけでなく、作曲、指揮、プロデュース……音楽すべてに関わる人のことです。音楽活動にあらゆる形で携わって、自由に生きていくことが、彼の目指す姿なのかもしれません。
さまざまな可能性に、怖れよりまず挑戦してみる姿勢が、どんどんと奇跡を生んでいるように思えます。
そして、周りの人を可能性の楽しさの中に一緒に連れていっているのがすてきだなと思います。
今、反田が新たに企画しているのは、バーチャルリアリティーを生かしたクラシックコンサート。
一体どんなコンサートになるのか。
どんなコンサートでも、音楽の楽しさと、奥深さをじっくりと味あわせてくれるのだろうな、と私は思います。
Hand in hand Vol.3
PROGRAM
13:30公演
1.バッハ:無伴奏ヴァイオリンソナタ第1番 ト短調 BWV1001 より アダージョ
Vn.岡本誠司
2.ドレーゼケ:ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、ホルンとピアノのための五重奏曲 Op.48より第1楽章
Vn.島方瞭、Va.長田健志、Vc.水野優也、Hr.鈴木優、Pf.反田恭平
3.ブラームス:ピアノ三重奏曲 第1番 ロ長調 Op.8
特別出演Vc.宮田大、Pf.反田恭平、Vn.岡本誠司
4.モーツァルト:ファゴットとチェロのためのソナタKv.292
Fg.古谷拳一、Vc.水野優也
5.R.シュトラウス:メタモルフォーゼン(弦楽七重奏版)
Vn.岡本誠司・大江馨、Va有田朋央・長田健志、Vc.水野優也・香月麗 、Cb大槻健19:00公演
1.ボッケリーニ:八重奏曲「ノットゥルノ」ト長調 Op.38-4(G470)
Vn.大江馨・桐原宗生、Va.有田朋央、Vc.水野優也・香月麗、Ob.浅原由香、Hr.庄司雄大、Fg.皆神陽太
2.チャイコフスキー:弦楽四重奏曲第1番より 第2楽章 アンダンテカンタービレ
Vn.岡本誠司・島方瞭、Va.有田朋央、Vc. 香月麗
3.グリンカ:大六重奏曲
Vn.大江馨・桐原宗生、Va.長田健志、Vc.水野優也、Cb.大槻健、Pf.反田恭平
4.フィンジ:弦楽合奏のためのロマンスOp.11
Vn.1 ★ 桐原宗生・島方瞭、Vn.2 岡本誠司・大江馨、Va有田朋央・長田健志、Vc.水野優也・香月麗、Cb.大槻健
5.ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第2番 変ロ長調 Op.19
Pf.& Cond.反田恭平 Vn.1 ★ 岡本誠司・大江馨、Vn.2 桐原宗生・島方瞭、Va.有田朋央・長田健志、Vc.水野優也・香月麗、Cb.大槻健、Fl.八木瑛子、Ob.荒木奏美・浅原由香、Hr.庄司雄大・鈴木優、Fg.皆神陽太・古谷拳一
(出典:Hand in hand(オンデマンドコンサート)のVol.3のチケット申し込みサイトより)
ピアニスト反田恭平が配信。MLMナショナル管弦楽団をプロデュースした理由
反田が、プロデュースしたMLMナショナル管弦楽団の“MLM”とはロシア語で「音楽を愛する青年たち」を意味する言葉の頭文字から取られています。(”Молодые люди, которые любят музыку” (ロシア語))
「音楽を愛する青年たち」とは、演奏者たちを指すのはもちろん、小さな子どもたちや、同世代の方々にも”音楽を愛する”ことを共感して頂けたら…という想いから命名されたといいます。
2018年、同世代の弦楽器の名手たちとMLMダブル・カルテット(注:弦楽四重奏2つ分の計8名)として旗揚げしましたが、反田は、もともとオーケストラにしていきたいと思っていたそうです。
そして、2019年には、16名に編成を拡大して、ソリストがたくさんいる室内管弦楽団にしています。
反田は、言っています。
「20~30代の若い世代が、50年後のことを見据えて動いていかないと日本のクラシック業界は発展しないのではないか」と。
MLMのメンバーは、皆、平成生まれの若い世代の演奏家たちです。
同世代で切磋琢磨(せっさたくま)をしていくことができる場にもしたいと思っているそうです。
そして、現在も海外で活躍しているメンバーが多いのですが、将来的には、国際色豊かなオーケストラとして展開し、東京にベースを置くということをせずに、この演奏会のためにメンバーが集まるような形式で、観客から、国民的なオーケストラだと思っていただけるようになれば、とも思っているそうです。
反田は、ピアノ演奏だけでなく、自分でオーケストラを組織して、指揮者としても活躍するロシアのミハイル・ヴァシーリエヴィチ・プレトニョフを尊敬しているといいます。
反田は、室内楽の魅力の披露や、隠れた名曲が演奏する機会の提供など、音楽へのさまざまなアプローチをMLMナショナル管弦楽団で実現しようと考えているようです。
次にどんな可能性に彼がチャレンジするのか、本当にワクワクさせられるな、と感じました。
情熱大陸「ピアニスト・反田恭平」を観て
「情熱大陸」のピアニスト反田恭平「25歳の異才が紡ぐ音楽の新しい楽しみ方」を観て、反田自身が「クラシック音楽に生かされている」ということを肌身に沁みて感じていて、それに向かって一直線に進んでいく無心さに、ただ、圧倒されました。
天から与えられた人生を、疑いなく、楽しみながら歩んでいる姿が清々しく、人生はこうありたいものだ、と私はつくづく思いました。
反田恭平に、人生の在り様を学ばせていただいたように思います。感謝です。
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