2020年8月1日放映の「題名のない音楽会」は、「この音が欲しかった、ひねりすぎた楽曲を楽しむ音楽会」と題して、こだわりの“音”を出す楽器が紹介されました。
古坂大魔王(こさか だいまおう)がサキタハヂメのノコギリ楽器や、神田佳子(かんだ よしこ)の打楽器など、ピアニストの藤田真央(ふじた まお)に、さまざまな斬新な楽器を紹介しました。
これが楽器?というものばかりでしたが、楽器の音色を聴くと、確かになくてはならないシーンがたくさん!世の中は、いろんな音の表現や、再現を欲しているんだな、と実感しました。
サキタハヂメは朝ドラ(9月から)のテーマ曲をミュージカルソーで演奏
大工道具のノコギリ。
これが楽器として使用されていることをご存じですか?
その名も「ミュージカルソー」、そのまんま、音楽のノコギリの意味ですね。
それを演奏する第一人者であり、作曲家でもあるサキタハヂメが、古坂大魔王(こさか だいまおう)の紹介により、登場!
サキタハヂメが言うには、「ノコギリの歯はついているのですが、あくまで演奏用でただの鉄板です。しかし、曲げて弓をあてて演奏すると、すっごいおもろい音と美しい音の両方がでるんです」
サキタハヂメを最初に見た時、スリムで真面目そうなイメージでしたが、話し始めたら、関西弁のキャップと話しの内容で一気にひょうきんなイメージに変わり、そのギャップが私は、面白く感じました。
そして、ミュジカルソーの音の醍醐味を実感してもらいたいと、クィーンの「ボヘミヤン・ブルー」を即興で演奏してくれることに。
「MaMa~!」の部分が気持ちいい、と、サキタハヂメお勧め。
澄んだ透明感のあるやわらかい音。洗練された音色で、この世の音というよりは、天上の音といったイメージの「ボヘミアン・ブルー」でした。
そして、鈴虫が、ライバルと認めた音でもあるとか。
鈴虫が居るところで、この「ミュージカルソー」を弾くと、鈴虫は大騒ぎ!!
サキタハヂメが、昆虫の専門家に事情を聞いたところ、鈴虫のジェラシーといわれたそうです。
鈴虫たちが大騒ぎした状況とは、どんな感じだったのでしょう?
鈴虫の気持ちは如何に!とも思います。
現代音楽の作曲家として世界から注目を集める国立音楽家大学准教授の川島素晴が、ミュジカルソーの成り立ちについて、こう説明をしてくれました。
「1920年代クラシックで、その後ポピュラーでも使われるようになって、初めは、オネゲル、ショスタコービチやA.ハチャトゥリアン「ピアノ協奏曲第2楽章」1936年が使っていた」とのことです。
そして、今年のアカデミー賞で作品賞を含む4部門受賞した、映画「パラサイト 半地下の家族」でも使用されているそうです。
ん~、需要は多いということですね。
実際、TVドラマやコマーシャルなどでも多く使用されているとか。
TVドラマの主なものだど、NHKの大河ドラマ 「真田丸」(2016年)をはじめ、NHK総合 よるどら 『ゾンビが来たから人生見つめ直した件』 (2019年)、テレビ東京 開局55周年特別企画 新春ドラマスペシャル 『最後のオンナ』 (2020年)、妖怪人間ベム(2011年)、そして、9月末に始まるNHK連続テレビ小説 「おちょやん」(2020年 – 2021年)の劇中楽曲にも使われる予定とか。
また、TVコマーシャルでは、エリエール「やさしさのリレー」や、資生堂 「パーフェクトホイップ」「パーフェクトリキッド」など多数に登場しています。
ミュージカルソーに興味を持った藤田真央が、試しに弾いてみることになりました。
持手部分を両太ももで挟んで、歯のない面に弓を走らせます。歯をただ曲げて弓を弾いても音はならず、歯をS字に曲げて弾くのがポイント!
すきま風のようなかすれた音が、だんだんと“らしい”音になってくると、足を震わせてビブラートをかけます。
おおっ!繊細な音の調べの扉の前に立った感じがしました。
サキタハヂメは、‘91年に、東京ののこぎり演奏家・都家歌六氏の演奏に感激して、ミュージカルソーを独学で習得したといわれて、今や世界中で活躍しています。弾き方から、音質の追求まで、独学でやったなんて、すばらしいですね!
サキタハヂメがこの番組のために作曲した曲を、藤田真央(ピアニスト)と共演しました。
♪混沌。そしておもいがけない未来へ
少し暗めの始まりから、ミュージカルソーの音に導かれて明るい曲想に、透明感のある静かな祈りにも似た曲でした。
共演した藤田は、「人の声に近い音色で、心にしみた」と感想を言っています。
【藤田真央(ふじた まお) ピアニスト】
1998年生まれ。世界最高峰のコンクール「チャイコフスキー国際コンクール」(2019年)で第2位受賞。世界が注目する若手ピアニスト。色々な楽器が好きで、シタール(インドの楽器)を持っています。
【川島素晴(かわしま もとはる)】
日本の現代音楽の作曲家、演奏家。国立音楽大学准教授、東京音楽大学および尚美学園大学講師。日本作曲家協議会副会長
【古坂大魔王(こさか だいまおう)】
日本のお笑いタレント、DJ、音楽プロデューサー。お笑いトリオ・コンビ「底ぬけAIR-LINE」の一員として『ボキャブラ天国』などの番組に出演。その後はお笑いと並行して音楽活動を行うようになり、2016年には歌手「ピコ太郎」に扮して『ペンパイナッポーアッポーペン』(PPAP)が話題になり、PPAPなどの楽曲は世界134か国で配信。
ウォーターフォンはホラー映画で聴く音!?
クラシック音楽で、雷の音や風の音を欲しがる作曲家が多いそうです。
川島素晴によると、モーツアルトも、「魔王」で雷鳴の表現を要望したりしていたとか。
その要望に応えるべく、さざまざな打楽器が登場しました。
例えば、天井から、カーテンのように下がる大きな鉄板「サンダーシート」は、R.シュトラウス作曲「アルプス交響曲」で雷鳴を再現するのに使われています。
オーケストラとの共演をはじめ、ソリストとしても現代音楽で活躍している打楽器奏者の神田佳子が、2つの打楽器を見せてくれました。
1つは、「スプリングドラム」。
竹筒のような形に太鼓の革が張られていて、太鼓の革の真ん中から、50cmくらいのコイルが尻尾のように垂れている、なんとも不思議な形の楽器でした。
筒をふりながら、コイルの尻尾が震えて、自然界にあるような音が創出されていました。
♪P.ビローン作曲「Mani.Mono」
この曲は、スプリングドラムの為の曲で、1つの楽器を1つの手で演奏する、どこまで可能性を引き出せるかにこだわった作品です。
番組では、スプリングドラムとサンダーシートの共演も入っていました。打楽器同士の共演も面白いですね。
藤田真央(ピアニスト)は、「音だけでなく、空間を扱っている気がした。自分たちも空間に乗り移っていけるようなそんな感覚」と評していました。
神田佳子(打楽器奏者)は、「ノイズのよう捉えられがちですが、サウンドの面白さを表現できるのが、打楽器のおもしろさです」
もう1つは、「ウォーターフォン」
底が金ボールの底のようになっていて、金ボールの淵から金棒のようなものが長さを変えて出ている、大きめの冠みたいな形をしています。
コントラバスやチェロの弓で金棒の部分を弾いたり、バチで叩いたりすると、「あー聴いたことがある!」という音が広がります。
ホラーのような未知の世界の音。ウワ~ンと空間に広がり、聴いた瞬間に身体が恐怖に反応するような音です。
川島素晴によると、ウォーターフォンは、1960年代終わりにできた楽器で、ウォータードラムと、カリンバ(アフリカの親指ピアノ)と、ネールヴァイオリン(ヨーロッパの楽器)の3つの楽器を交ぜ合わせて作られたそうです。1970年代によりさまざまな作曲家が使っていて、「エイリアン」などのホラー映画をはじめ、SF系の映画「スター・トレック」「マトリックス」など数多くの作品で使われているそうです。
♪タン・ドゥン「ウォーター・ミュージック」
自然の中心にある音「水の音」を音楽的に表現した曲
【神田佳子(かんだよしこ)打楽器奏者】
横浜生まれ。11才よりドラムを始める。東京芸術大学打楽器専攻卒業、及び同大学院修士課程修了。ドイツ:ダルムシュタット国際現代音楽夏期講習会に参加し、奨学生賞を受賞。ソリストとしてさまざまなオーケストラと共演。また、国際的な場での演奏活動も多数。現代音楽を 軸に、正倉院復元楽器の演奏やジャズミュージシャンとの共演等、時代やジャンルを超えた打楽器演奏の可能性にアプローチしている。
藤田真央リサイタル?テスラコイルの稲妻を使って「愛の悲しみ」を演奏
稲妻が奏でるビリビリの楽器、「テスラコイル」
「テスラコイル」は、エジソンのライバルとして知られている科学者ニコラ・テスラが開発した空気中に稲妻を放つことができる放電装置です。
楽器というよりは、稲妻を発生させる装置を楽器に応用している、といったほうが正しいそうです.
装置自体は、1秒間に何回稲妻を落とすかということを制御しているので、その回数を上げていくと、発する音が高くなり、音程が出てきます。
稲妻の出る回数(周波数)をキーボードの鍵盤の音と同じに設定することで、稲妻でメロディを奏でることができるのです。
キーボードの音を聴いた藤田真央(ピアニスト)は、「こんなに溌剌とした音がでるなんて思わなかった」と、稲妻が空気を震わせて出る音が、スピーカーを通さないのに直接的に聞こえることに、驚きの声を出していました。
川島素晴によると、テスラコイルが、楽器として使われ始めたのは、ここ十数年とのことでした。
藤田真央は、ピアニストとしてキーボードの音に興味があったのでしょうか?
テスラコイルで、演奏にチャレンジをしました。稲妻のビリビリ音との共演です。
♪F.クライスラー「愛の悲しみ」
藤田真央(ピアニスト)は、テトラコイルを弾いてみて、「面白味がありますね。新たな境地が見えます」と語っていましたが、テトラコイルの演奏家にはなりそうにもありません。
他に、全ての楽器のルーツは肉体!とした、川島素晴による口で水を受けて音を発する演奏方法が紹介されました。
♪G.ブレクト作曲「滴下の音楽」
譜面に「空のバケルに水を落とす」という指示だけが書かれた楽曲で、単に「ドリッピング」とだけ書いてあるのもあるそうです。
そんな楽譜もあるんですね。演奏者に全てを任せることによる音楽性、私にはよくわかりませんけど。
口の微妙な角度や水の量によって音程が変わり、石丸幹二は、鹿威しの水が溜まるまでの音に似ていると評していました。
題名のない音楽会の「この音が欲しかった、ひねりすぎた楽曲を楽しむ音楽会」を観て
今回の放映は、全く新しい境地を見せていただいたな、という感じでした。
音楽は、もともと、自然界にあるさまざまな音を再現することで生まれてきたのかもしれないな、と私は思いました。
実際にある音を表現しているうちに、イメージや気持ちも音楽や、楽器で表現するようになって、今もそれが引き続き行われているのかもしれません。時代を反映するツールのひとつなのかもしれませんね。
プログラム
♪1:「混沌。そして思いがけない未来へ」
作曲: サキタハヂメ
ミュージカルソー: サキタハヂメ
ピアノ: 藤田真央♪2:「マニ、モノ」 より
作曲: P.ビローネ
スプリングドラム: 神田佳子♪3:「ウォーター・ミュージック」 より
作曲: タン・ドゥン
ウォーターフォン: 神田佳子♪4:「愛の悲しみ」
作曲: F.クライスラー
テスラコイル: 藤田真央♪5:「滴下の音楽」
作曲: G.ブレクト
口: 川島素晴
ドリップ: ささきしおり
(出典:題名のない音楽会/テレビ朝日 公式サイトより)
偉人たちが残した言葉
どんな音でも音楽作品の中に場が与えられれば、それは音楽的になる。
~作曲家 ジョン・ケージ~
(出典:題名のない音楽会/テレビ朝日 公式サイトより)
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